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2008年9月 4日 (木)

■書籍:数学の遺伝子

 今回は、小島寛之センセの「数学の遺伝子」(2003年刊)からの紹介。パン生地をこね棒で2倍の長さに引き伸ばし、それを折りたたみ、重ねて半分の元の大きさに戻す。これを繰り返していく……。

20080903_01

 この「パイこね」を数式で表すと、
f(x)=2x(0≦x≦0.5)
f(x)=2-2x(0.5<x≦1)

パイこね変換図

20080903_02

問題:パイこね変換で動かない数、つまり、f(x)=xとなる数を求めよ。 また、パイこね変換で2周期、つまり、f(f(x))=xとなる数を求めよ!

 というわけで、動かない数のひとつ目は、y=2xと、y=xの交点なので、x=0しかないのは、あきらか。もうひとつは、y=2-2xと、y=xの交点を求めればよい。x=2-2xなので、x=(2/3)だ。下のFlashで確認してみよう。

 「x=0」はともかく、もうひとつの「x=(2/3)」のほうは、小数に直すと「0.66…」だ。ところが、ステッパーの数値を「0.66」にしても、「0.67」にしても、xの値は定まらない。爺の作成したFlashでは、0.01刻みでしか動かせないが、この精度を0.001とか、0.0001と、もっと細かく設定できるようにしても、不動点に収束するどころか、ますます、図が複雑になってしまう。
(※Flash8以降を持っている人は、ソースをダウンロードして、ステップ数値を変更するなり、直接指定するなどして、確かめてほしい。paikone01.zip

 (2/3)は整数の比で表すことのできる分数(有理数)だが、0.66…と無限に続く循環小数だ。ほんのちょっとの初期値の差が、のちのちの計算で大きな差になって表れるので、予測が困難になる。これが「カオス」だ。

 もうひとつの問題、「2周期になる数」は、2-4x=xを解いて、x=(2/5)と、4-4x=xを解いて、x=(4/5)だ。こちらは、小数に直しても、0.4と0.8なので、ステッパーで数値を設定すると、2周期で定まる。

 この「パイこね変換」は、ひとつ前のエントリーで紹介した「生き物の公式」と非常によく似ているとゆーか、基本的な考え方は同じなのだ。パイこね変換のほうは、x=0.5を境にf(x)=2xと、f(x)=2-2xを組み合わせたグラフになり、生き物の公式は、f(x)=x*(1-x)になっている。難しげでカッコイイ数学用語で言うと「ロジスティック写像」というらしい^^;

 じつは、小島寛之センセの「数学の遺伝子」では、「パイこね変換」に続けて、ロバート・メイの生き物の公式とも呼べる「マイマイガの発生のメカニズム」も登場するんだよね。「ファーゲンバウム定数」や、「ベルヌーイシフト」というカオス現象もわかりやすく解説してくれる。

 ニュートンの運動方程式に従えば、1000年後の惑星の位置だって計算できる。このように運動法則と初期値が定まれば、未来を決定できるという考え方は、決定論的世界観だ。この考え方を推し進めていくと、なにもかもが運命的に「ラプラスの悪魔」に支配されることになる。

 その「ラプラスの悪魔」を追い払ったのが「カオス理論」だ。気象学者のローレンツは、気象を予測しようとして、気象をコンピュータでシミュレーションしようとしたんだけれど、僅かな初期値の違いが、予測できない結果を生むことがあることに気づく。「北京で蝶が羽ばたけば、ニューヨークは嵐が起こる」というたとえから、これを「バタフライ効果」と呼ぶ。

 現在、カオス理論は、画像圧縮技術や、株価予測など、さまざまな分野で応用されている。その「カオスの素」というと「味の素」みたいだけれど、カオスをつかさどるのが無理数なのだ。

 「数学の遺伝子」は、整数、分数、小数、有理数、無理数……と数概念を拡張してきた「数の生い立ち」と、それが人々の世界観や、現実の世界に与えた影響、科学やテクノロジーの物語。

 数概念の進化は、次の新しい数概念を必要とする。「無理数」に続く物語は「虚数」だ。虚数は「Imaginary number」と訳されるけれど、これほど、イメージしにくい数はない。マイナス×マイナスは、プラスで、これまで二乗した数は必ず、正の数になると習ってきたのに、二乗したら、負になる数とは、どーゆーこと? と困惑を覚えるのは爺だけではないはず^^;

 小島センセは、タルターリアの悲劇から始まる「虚数」誕生の物語を語る。なぜ「虚数」などという数概念が必要になったのか、「虚数」をどうイメージすればよいのか、そして「虚数」によって、数学は、科学は、テクノロジーは、どういう進歩を遂げ、どのような変革が待ち受けるのか。

 カルダノの公式も、フェラルリ(フェラーリ)の4次方程式の解法も「虚数」を必要とした。複素数が開くガウス平面の世界。「ガウス整数」と「ガウス素数」。そして、物理現象の中に見出された「虚数」。シュレディンガーの波動関数。トンネル効果に潜む「虚数」。ついに解かれたフェルマーの大定理と「イデアル数」……。圧巻は、量子コンピュータのしくみと、量子コンピュータが実現したら、RSA暗号が解かれてしまうことを証明するくだり。ホントに爺は、いままで言葉としてしかイメージできなかった「量子コンピュータ」のしくみが、ほんのちょっと、わかった気になってしまった^^;

 人間は胎児のとき、遺伝子に刻まれた進化の歴史をそのまま、辿って成長すると言う。小島寛之センセの「数学の遺伝子」の扉を開けると、人類の数概念の歴史が、人間の葛藤が、絵巻物のように浮かび上がってくる。それは、とてつもなく壮大なパノラマ風景だけど、鳥獣戯画のように堅苦しさは微塵もなく、数式がわからなくても楽しめる知的なエンターテインメント、わくわく、どきどきする物語なのだ。

数学の遺伝子 数学の遺伝子
~5本の指からはじまる壮大な物語


小島寛之/著
日本実業出版社(2003年刊)

※追記
 小島センセのブログ「hiroyukikojimaの日記:2008-08-31 「7の倍数」の判定法」の記事中で、「ガスコン研究所」を紹介していただいた。アイドルファンである小島寛之センセのファンである爺にとって、ギガうれしいどころではない。爺のブログを読んでくれただけで、光栄なのに、リンクまで張ってくれているのだ。googol(10^100)感激~~っ! 小島寛之センセありがとう!



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